札幌市・定山渓温泉で『翠巌(すいがん)』が開業してからもうすぐ6か月。
多くのお客様からのご予約を頂戴しております。心より感謝申し上げます。
全7室オールスイート。
「時間の制約から解放される」ために設計された館内で、ゲストはどのようなシーンを過ごしているのか。
ここでは、その一部を皆さまにご紹介させて頂きます。
浅井 雅也/Droga5 Tokyoチーフクリエイティブオフィサー
北海道生まれ。高校時代より留学のため渡米。サンフランシスコにあるAcademy of Art University 広告学部にてアートディレクションを専攻し、同校大学院にて修士課程修了。日本とアメリカで培われた視点や、クリエイティビティとイノベーションを中心にした課題解決のアプローチが世界的に認められ高い評価を受けている。2007年に日本人初のアジアベストクリエーターに選出。以後東京とロサンゼルスを拠点に活動し、2017年に博報堂最年少グローバルクリエイティブディレクターに就任。2021年よりDroga5設立メンバーとして参画。
代表作のApple「Shot on iPhone」はカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル グランプリやGrand Clioなど多数受賞。これまでに合計100を超える国内外の賞を受賞している。2018年 Forbes Japan誌「世界を変える39人のデザイナー」、2019年「40 under 40: Young Leaders in APAC」に選出。2020年には Campaign Asia Pacific誌が選ぶ「Creative Person of the Year 」に選ばれた。
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アイディアを練ったり、温泉に何度も入ったり、本を読んだり。
何かに没頭してもいいし、なにもしなくてもいい。
2泊だから叶う時間の使い方と自由度を知ると、旅のスタイルはぐっと広がる。
東京から北海道へ
これからの事業戦略を考えること。
これから始まるプロジェクトを考えること。
日常の中では「思考」する時間がすこし足りない。
そう思ったある夏の日、3日間の休みをとり、東京から故郷・北海道へ向かった。
新千歳空港から車で75分。
夏の定山渓温泉に来るのは初めてかもしれない。
眼前に広がる山の翠(みどり)の深さに、国立公園が故の自然の豊かさを感じ取る。
201号室「倭舞」
館内に入ると土壁が天井まで高く広がり、シンプルで自然との調和を感じる内装に、ここでは自然体で大丈夫と言われている気がした。
長旅の疲れも忘れ、部屋へ向かう足取りは軽い。
全7室のうち最も大きな窓を配した201号室は、部屋に居ながら森林浴をしている気分にさせてくれる心地よさがある。
リビングとベッドルームは緩やかに分離しているため、休むことと創作・思考することの切り替えもうまくできそうだ。
温泉に浸かり、いつもよりゆっくりと食事をとり、本のページをめくる。
そんな何気ない過ごし方が、時間の制約から解放されたことを実感させてくれる。
郷土を感じるイノベーティブ・キュイジーヌ
旅の楽しみの一つに、その地でしか味わえない食がある。
1日目の夕食は、翠巌から500メートル離れた場所にある「食堂いち」のディナーを選択。
五感で料理を愉しめるカウンター席は、ひとりでも時間を持て余すことなく心地よい時間を過ごすことができる。
ここではフラノ寶亭留でミシュラン一つ星を獲得した小松シェフの特別ディナーが振る舞われる。
シェフのキャリアはフランスから。21世紀を代表する料理人といわれる「ミシェル・ブラス」のもとで修行し、「ミシェル・ブラス トーヤジャポン」では日本人調理長としても活躍した。
そんな小松シェフは北海道・余市町のワイナリーに魅了され、自ら葡萄収穫の手伝いにも通うほどなのだそう。
料理にあわせたロゼワイン“SUIZAN”は、その土地(区画)でしか表現できないワインを生み出すコンセプトで余市町・平川ワイナリーが醸造した1本。優美な果実味でバランスの良いロゼワインが、旅のはじまりの緊張をやさしくほどいてくれる。
この日は毛蟹や雲丹、蝦夷鮑といった海の幸から地鶏や野菜まで、北海道を感じられずにはいられない皿の数々。素材の持ち味が最大限に活かされた料理の数々を口にすると、季節ごとにこの料理を味わいたいという思いに駆られる。
部屋に戻り、湯に浸かり、長距離の移動もあってかこの日は早くに眠りについた。
2泊目の特別感
1泊の旅行となれば、夕食を食べ終えた頃から既に「もう旅が終わってしまう」と寂しくなり、翌日チェックアウトのことを考えてしまいがちだが、2泊するとまるで時間感覚が変わる。
翌朝目覚めた瞬間、「さぁ、今日は何をしようか。」という高揚感がこみあげてくるのだ。
朝からゆっくり本のページをめくりながら、「のんびり過ごす」感覚を取り戻す。
車からは見えない定山渓の景色
小さい頃から馴染みのあった定山渓温泉は、車で向かうと真っすぐ宿にチェックインして、チェックアウト後はそのまま自宅へ帰る。そんな「泊まるだけの温泉地」だった印象が強い。
川の音、野鳥や虫の鳴き声、翠(みどり)と巌(いわお)のコントラスト。
いざ歩いてみると、車からは見えなかった定山渓の景色と圧倒的な自然美に、五感が刺激されていく。
ランチは、完全予約制のカレー専門店へ。
照度の低い場所でスパイスと向き合う。そこは東京からの1泊旅行では体験できなかったかもしれない、誰かに教えたくなる秘密空間だった。
食後は「森乃百日氷」のかき氷まで堪能し、一気に夏を満喫した気分に。
好きなように過ごす
自然の中で過ごす時間は、都市で過ごすよりも長く感じられることが証明されているという。
そのせいか、2泊目はずいぶんと時の流れがゆったりと感じる。
昼下がりにつかる温泉は、一段と特別な気分にさせてくれるのだ。
わざわざ部屋を出ることなく、好きな時に何度でも愉しめるのが温泉付客室の醍醐味。
作業やアイディアに詰まったら、ちょっと温泉。そんな気分転換の方法がそばにある安心感もうれしい。
外ではセミがしきりに鳴き、源泉かけ流しの透明湯が窓から差し込む光によってキラキラ輝きを放っていたのを今もよく覚えている。何度入っても飽きない、居心地のいい空間だった。
今日の仕事場所は「自然の中」。
思考を整理したり、自分の心をみつめる時間や空間を日常生活に見出すのは意外と難しい。
こうやって宿に籠り、チェックアウトまで宿スタッフからの過度な声かけもなく、自分の世界に没頭できる時間と空間は貴重だ。
パソコンさえあれば全世界どこでも仕事ができる時代だからこそ、旅先が快適な仕事場になることもある。
デジタルデバイスを使った仕事が多いからこそ、ここにいる間は意識的に距離をとる時間を設けてみる。
お気に入りのペンを片手に紙に描く事業計画は、どんどんと膨らんでいく気がする。
顔をあげれば、目の前に緑。
車が行きかう音も無く、静けさがただよう。
都市部では得られないロケーションに、何度もうれしい溜息が漏れてしまう。
アイディア出しや創作活動に没頭する。
そんな2泊3日のひとり合宿を終えて帰路についたあと、思い出すのは夏の定山渓を包み込んでいた翠(みどり)色。
「またあの宿に帰りたい」と思う余韻すらも、心地よい。
この仕事をしているとインプットに追われがちになるが、
あらゆるモノが揃う都会と、人間らしさを取り戻す自然環境を、バランス良く組み合わせながら生活していきたいと思う。
今回の北海道旅行は、そんな風にリトリートできる時間だった。
◎泊まった部屋:201号室「倭舞」
・パノラマビュー展望風呂付客室
・定員2名様
・大きな窓のリビングが印象的な客室。夏は眼前に広がる翠(みどり)に包まれ、秋には紅葉を。冬は白銀の景色が広がり、木の葉が落ちる春は、舞鶴の瀞に流れ込む川を最もよく望むことができる。